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アパレル・ファッション業界の仕事とサービスはAIでどう変わる?

2024.12.10

アパレル・ファッション業界の仕事とサービスはAIでどう変わる?

膨大なデータをもとに自ら学習し、成長していくAI(人工知能)の発達により、ビジネス環境は大きく変化しました。アパレル・ファッション業界でも問い合わせ対応、採寸、トレンド予測に使われるなど、導入が進んでいます。

今回は、AIの活用によりアパレル・ファッション業界の仕事がどう変わったのか、またこれからどのように変わっていくのかを詳しく解説します。

ECサイトやコーポレートサイトなどに設置されているチャットボットを利用した経験がある人もいるでしょう。チャットボットには3種類あります。あらかじめ準備した複数の選択肢を提示し、お客様が知りたいものを選択するシナリオ型、入力された質問文を解析し、用意された「辞書」から回答する辞書型、AIが対話ログを機械学習して回答を生成するAI型です。

シナリオ型、辞書型はあらかじめ準備された回答しかできません。しかし、膨大なデータを活用して新たなコンテンツを生み出すことができる生成AIを活用すると、人間との会話に近いチャットが可能になります。さまざまな問い合わせに柔軟に答えられるAIサービスが増えており、導入する企業が増えています。

アパレル業界でも、問い合わせ対応のAIが浸透し始めており、業務効率化に貢献しています。店舗やECサイトにおいてお客様からの商品情報の確認、注文の変更・キャンセル、配送状況や営業日の確認といった業務に販売員やアパレル事務職は多くの時間を奪われます。

チャットボットやAIを導入した問い合わせ対応システムがあれば、簡単な問い合わせにはチャットボットが対応し、販売員は接客に集中することができます。24時間365日対応できるので、お客様は気になった時にいつでも問い合わせができるようになり、顧客満足度も向上するでしょう。

最近は電話対応ができるAIも登場しており、パソコンやスマートフォンが苦手というお客様も気軽に利用できるようになっています。複数の外国語に対応したAIを導入すれば、国内に住む外国人のお客様の購入も増えるでしょう。

ただしAIは、イレギュラーな対応や複雑な内容の問い合わせを苦手としており、丁寧な応対が必要な場合は販売員やアパレル事務職の力が必要です。

AIを活用すれば、販売員が直接採寸したり、3Dスキャナーなどの大掛かりな装置を用意したりする必要がなくなり、スマートフォンのカメラだけで正確に採寸することができます。

アパレルのECにおいて、試着できないことは大きなデメリットでした。しかし、AIの進化により、お客様は自分のスマートフォンのアプリで写真を撮影するだけで、サイズが合う服を購入できるようになりました。自宅に届いて着てみたら、サイズが合わないため返品といったトラブルが減少するため、販売員の返品対応やクレーム対応の負担も減少しています。

店舗においても、AIによる採寸が増えています。たとえば下着を購入する女性のなかには、他人に採寸されたくないという人もいるでしょう。店内にあるAIを利用したボディスキャナーを使用すれば、数秒でサイズを計測できるだけでなく、AIがおすすめの下着を提案してくれます。

AIを使用することで採寸にかかる時間を短縮することができるため、販売員はコーディネートやサイズ感の合った服を提案するなど、売上に直結する業務に注力することができます。

シーズンごとに登場する新作アイテムを利用しつつ、トレンドを押さえたコーディネート案を考えるのは大変です。しかし、AIに膨大な服のデータや組み合わせ、トレンドなどの情報を学習させておけば、誰でも簡単に流行にあったコーディネートを提案できます。

販売員の能力によってコーディネート提案の質が左右されることがありますが、AIなら常に同じ品質の提案をすることが可能です。店舗にコーディネートを提案してくれる端末を置いておけば、販売員と話すのが苦手という人も気軽に買い物ができるでしょう。

ECサイトやブランドの会員サービスの場合、これまでに購入した服が履歴として残っているため、手持ちの服を利用したコーディネートを提案することもできます。好みの色やスタイルをAIが学習するので、使えば使うほど自分のスタイルに合ったコーディネートを提案してくれるようになります。

また、ブランドを問わず手持ちの服をアプリに登録しておくと、着用回数や傾向を学習してコーディネートを提案するサービスも登場しています。AIの発達により「何を着ればいいのかわからない」「服を選ぶ時間がない」という悩みの解消も進んでいるようです。

アパレル・ファッション業界において、トレンドの把握はビジネスに大きく関わります。トレンド予測を元に生産や販売の計画を立てたのに、読みが外れてしまうと、「膨大な在庫を抱えた商品を廃棄する」「売り切れが続出して機会損失になる」といったダメージが生じます。

従来は過去の傾向や社会情勢を分析し、カラーや素材、デザインといったトレンドを予測してきました。しかし、膨大なデータを分析し予測を導き出すのは大変で、時間もかかります。最近は、AIを用いて膨大なデータを素早く分析したうえでトレンド予測を行い、生産・販売計画を立てるアパレル企業が増えてきました。今では、老舗ブランドもAIを活用しています。

AIが優れているのは、データ分析のスピードだけでなく、リアルタイムに近いトレンド分析を行えることです。Instagram やX(旧Twitter)、ブログ、メディア、SNSなどに掲載されている数十万点以上のスナップ画像を素早く分析し、「今、流行っているアイテム」を把握することができます。市場の需要に合わない商品の生産を抑制し、在庫過剰のリスクを減少させるなど、スピード感のある対応もできるようになりました。

アパレル業界では、ひとつのヒット商品の裏側に、「比較検討されるのになかなか売れない商品」が数多く存在します。ECサイトでは比較的簡単に分析できるのですが、店舗では販売員がお客様の様子を確認することでしか把握できませんでした。しかし、店舗の入り口にカメラを設置すれば、入店した人数・時間をチェックしつつ、どのようなルートで店内を歩くのか、手に取ったけど購入しなかった商品はどれかなど、お客様の様子をAIで分析することができます。

顔識別機能を利用すれば、年代や性別のデータを取ることが可能になります。これらを全て分析することにより、「どこにどの商品を配置したら最も売上が伸びるのか」「何時ごろにタイムセールを行えばいいのか」「時間帯ごとに何人の販売員で対応するのが最適なのか」といった情報を得ることができ、売上アップ・利益向上に貢献します。

AIでは画像や写真も生成できるため、ファッションデザインに特化したAIも登場しています。デザイン作業を便利にするツールだけでなく、「手書きのデザイン画から写真のような画像を作る」「イメージを指示(プロンプト)してデザイン画を作成する」といったことも可能です。

AIの使用はデザイナーが新しいアイデアを求めている際に有効です。頭に思い浮かんだ内容をAIに描かせることによって、より短期間で大量のデザインを作成できるほか、人間だけでは浮かびづらかったアイデアが手に入るなど、創造性を大きく膨らませることができます。従来の生産工程に必要だった数万枚の手描きパターンや製品サンプルは、AIが精密なデザイン案を提案することで全て不要に。デザイナーは作業時間を短縮することができ、より創造的な業務に時間を使うことができます。

創造性以外にもデザイナーがAIを頼る理由があります。それは、商品開発のサイクルの速さです。以前よりトレンドの移り変わりが速くなっているため、デザイナーには短期間でデザインを作成することが求められています。

AIにデザイナーやブランドのデザインを大量に学習させることによって、その人らしさやブランドの特徴を押さえた新デザインを作ることが可能です。リサイクル可能な素材選定や、環境負荷の少ないデザインといった指示も可能で、SDGsを意識したデザインも簡単に作成できるでしょう。

実際にAIが生成したデザインはコレクションに登場したり、生成AIを活用したファッションブランドを作るコンテストが開催されたりと、デザイン分野においてもAIは積極的に活用されています。

AIの分析能力はアパレルの需要予測、販売予測、サプライチェーンの最適化にも役立っています。

従来は過去のデータから各店舗の販売数を予測して、生産数を決めており、店舗の数が多ければ多いほど大変な作業でした。しかし、AIに過去の販売数、気温などを学習させれば、人間が予測を立てるよりも速く・正確な生産数の予測が可能。売れ残りや過剰在庫の削減につながります。また、DB(ディストリビューター)が行う店舗への商品の配分もAIを活用することで、無駄のない販売計画・在庫管理を行うことができます。

アパレル企業では販売計画に基づき、各商品について使用する素材、縫製工場、製造する順番を決め、物流ルートを確保し予定通りに販売できるよう準備をします。この生産管理の工程もAIを使えば最適なルートを導き出せるため、生産効率やコスト削減が実現します。

データを分析しつつも、予測は経験や勘に頼ることが多かった生産管理・在庫管理ですが、AIを使用することで業務のノウハウがデータ化され、共有できるようになりました。業務の属人化を防ぐことにもつながり、アパレル業界での業務品質の維持、働き方改革にも貢献しています。

さらにAIとオンデマンド生産技術を組み合わせることで、お客様の体型にあった世界にひとつだけのカスタムメイド商品を、短納期かつ低コストで提供できるようなってきています。

ECサイトや広告で使うキャッチコピーの作成、商品タイトルや説明文、ブログ、メルマガ、Web広告などの画像の作成にもAIが使われています。モデルもAIで作成することができるため、スタジオを借りて、モデルのスケジュールをおさえて撮影といった手間をかけることなく、好きな体型、ポーズ、背景で多様な商品写真を準備することが可能です。アパレル業界全体の作業効率化につながっています。

業務効率化、お客様の満足度向上に貢献するAIですが、利用には注意すべき点があります。

あくまでもAIは過去のデータからしか予測することができません。たとえば、コロナ禍のようなイレギュラーな事態はAIでも予測は不可能です。トレンド予測、需要予測をする場合は、AIでも予測できない点があること、長年の経験や店舗で見かけたことなども大事にして、必要に応じてAIの予測を修正するという意識が必要です。

AIに学習させるデータにも注意したいものです。信頼できる予測を手に入れるためには、過去のデータだけでなく最新のデータも学習させるほか、学習させるデータが偏らないようにしなければなりません。AIが生成したデータを知見のある人が精査するという業務を継続するなど、常に学習内容の見直しが欠かせません。

デザイン作成においてもAIは過去のデザインを元にデザインを生成するため、過去のパターンを大きく超えた斬新なデザインを作成することは苦手です。また、類似したデザインを認識できずに模倣品を作成してしまうこともあります。最終的には人間によるチェックが必要となります。

AIを活用するためには、AIに適切な学習をさせるための専門的な知識や経験が必要です。AIの開発は主にIT企業などが行いますが、彼らはアパレル業界に詳しくありません。アパレル業界にエンジニアとアパレル業界の橋渡しになれるだけの知識をもった人材がいないと、効果的なAIの活用は難しいでしょう。

使用する側にもAIに関する知識やスキルが求められます。生成AIはプロンプト(指示)を的確に出さないと、望む回答を得ることができません。デザイン作成の場合も、指示(プロンプト)が大変難しく、思い通りの画像を生成することは難しいのが現状です。

AI開発だけでなく、AIを使いこなせるだけのリテラシーを持っている人が少ないため、アパレルとAIの知識を兼ね備えた人材は収入アップやキャリアアップが期待できます。

アパレル業界では、製品の企画からデザイン、製造、販売、在庫管理、プロモーションにいたるまで、多くの職種が関わりながら仕事を進めています。この中にはAIが代行できたり、AIによって効率化ができたりする業務が多いため、AIに仕事を奪われる人もいるでしょう。人間にしかできない真心のある接客、AIを使いこなすスキルといったプラスアルファできるものがないと、安定して働くのは難しい時代になるかもしれません。

アパレル・ファッション業界に限らず、これからはAIを使いこなして働くことが求められるでしょう。今のうちにAIリテラシーを高めておくことで、キャリアアップができるかもしれません。

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